4 ヒトミさん

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「コバやん、ばっかだなー。相変わらず」  俺が思わず吹き出し肩を揺らしていると、三関はそれに便乗せずじっとこっちを見ていた。 「藤好はさ……いなかったの? 好きな子」 「なんだよ、さっきのお返しとか?」 「半分はね。でも、あんたモテるのにみんな断わってたから、もしかしたら本命がいるのかなって」 「本命……」  その瞬間、ヒトミさんの顔が浮かんだ。花屋の脇で、俺をキラキラの目で見つめてきたヒトミさんの顔が。 「……え、いるの?」 「あ、いや。いるっつーか」  ーーうわ、やっぱ照れくさいもんだな。三関相手にこの手の話題は……。  俺はこの話題を振ったことを、早くも後悔していた。  ヒトミさんのことを考えて感情が昂ぶり、同時に照れくさい気持ちが押し寄せてきて、どうしようもない。 「そっか、全然気付かなかった。いたんだ、本命」 「いやいや、決めつけるなよ」  なんか、顔が熱くてしかたがないし、尻の辺りはムズムズするし。俺はコバやんに助けを求めるべく、勢いよく立ち上がった。 「ごめーん、おまたせー。途中でいろんなヤツに捕まってたから遅くなっちった」  コバやんはお気楽そのものの空気をまとい、戻って来た。腰に手を当ててテヘペロと舌を出す。 「ほんと、おせーよ、おまえ」 「ん? フジなんで立ってんの? もしかしてお迎えに来てくれるとこだった?」 「聞いてよ木庭、藤好ってば……」  俺は三関の台詞に言葉を被せた。視線だけで「言うな」と訴える。 「だ、誰に捕まってたんだよコバやん」 「ん? クラスの女子が何人か来ててさー」  こんなとき、コバやんがアホな単細胞で良かったとつくづく感じる。  三関はそれ以上は話を続けなかった。ホッとして脱力し、思わずコバやんの腕にすがりついて肩に額を預ける。 「フジ、どったの? おおよしよし」  一部の女子が喜びそうな体勢だが、周囲は人がまばらだ。俺は構わずコバやんにされるがまま、しばらく頭を撫でられていた。
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