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彼女は今日も来ていた。
いつもの場所、天井まで届く窓ガラス前のカウンター席の一番はしっこ。
ブルーのハードカバーの厚い本を華奢な両手で支え、白い横顔は熱心に文字を追っている。くるんとカールしたまつ毛が忙しなく上下に動いているのがよくわかった。
軽くウエーブのかかった長い髪を高い位置で無造作に結えていて、おくれ毛が白いうなじをふんわり囲っている。
華奢な首筋が頼りなげで、俺の視線はついつい引き寄せられてしまう。
――今日は、スカートだ……
いつも見かける彼女の服装は、ジーンズやアースカラーのゆったりしたパンツスタイルなどが多かったのに。というか、俺の記憶が正しければスカート姿はなかったはずだ。
このカフェに来るたび必ず彼女を見ているのだから断言できる。
表通りをバックに、大きなガラス窓の前に座った彼女に人光が差している。
そして、本当に今日の彼女ははっとするような美しさで、ニット素材のベージュのロングスカートが彼女のまとう雰囲気をよりいっそうやわらくしているから、意識して気を引き締めないと本来の目的を忘れて、ただボケーっと彼女の姿を見つめてしまいそうだった。
そうだ。俺は勉強するためにここに来ているんじゃないか。しかし……。
彼女のスカート姿がレアだからって、ついつい視線がカウンター席へと吸い寄せられてしまう。
いつもはもう少しおとなっぽい感じなのに、可愛らしく見えるのも問題なのだ。うん、可愛い。
なんだっけな、何て言うんだっけこういうの。「けしからん可愛さ」って感じか……。
おまたせしました。と、カウンターから店員の声が聞こえてはっと我に返った。
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