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「コバやん、ばっかだなー。相変わらず」
俺が思わず吹き出し肩を揺らしていると、三関はそれに便乗せずじっとこっちを見ていた。
「藤好はさ……いなかったの? 好きな子」
「なんだよ、さっきのお返しとか?」
「半分はね。でも、あんたモテるのにみんな断わってたから、もしかしたら本命がいるのかなって」
「本命……」
その瞬間、ヒトミさんの顔が浮かんだ。花屋の脇で、俺をキラキラの目で見つめてきたヒトミさんの顔が。
「……え、いるの?」
「あ、いや。いるっつーか」
ーーうわ、やっぱ照れくさいもんだな。三関相手にこの手の話題は……。
俺はこの話題を振ったことを、早くも後悔していた。
ヒトミさんのことを考えて感情が昂ぶり、同時に照れくさい気持ちが押し寄せてきて、どうしようもない。
「そっか、全然気付かなかった。いたんだ、本命」
「いやいや、決めつけるなよ」
なんか、顔が熱くてしかたがないし、尻の辺りはムズムズするし。俺はコバやんに助けを求めるべく、勢いよく立ち上がった。
「ごめーん、おまたせー。途中でいろんなヤツに捕まってたから遅くなっちった」
コバやんはお気楽そのものの空気をまとい、戻って来た。腰に手を当ててテヘペロと舌を出す。
「ほんと、おせーよ、おまえ」
「ん? フジなんで立ってんの? もしかしてお迎えに来てくれるとこだった?」
「聞いてよ木庭、藤好ってば……」
俺は三関の台詞に言葉を被せた。視線だけで「言うな」と訴える。
「だ、誰に捕まってたんだよコバやん」
「ん? クラスの女子が何人か来ててさー」
こんなとき、コバやんがアホな単細胞で良かったとつくづく感じる。
三関はそれ以上は話を続けなかった。ホッとして脱力し、思わずコバやんの腕にすがりついて肩に額を預ける。
「フジ、どったの? おおよしよし」
一部の女子が喜びそうな体勢だが、周囲は人がまばらだ。俺は構わずコバやんにされるがまま、しばらく頭を撫でられていた。
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