1 カフェにいる彼女

6/7
前へ
/36ページ
次へ
 イートインの客は俺と、例の彼女のほかに、2組だけ。  いつもこんな状態だけど、ガソリンスタンドに立ち寄った客がテイクアウトの注文をするから、店内は常に豆を挽く音と、コーヒーの深い香りに満ちていえ、なかなかいい。  俺は幼いころからコーヒーの香ばしい香りが好きだった。  両親ともにコーヒー好き。特に父親はコーヒー豆にこだわりを持っていて、休日にはわざわざ都心までコーヒー豆を買いに行くほどだった。  現在はほぼ通販を利用しているが、俺が小学生の頃は休日のたびにコーヒー専門店へ出かける父親にくっついて行ったものだ。  自分で飲むならミルクたっぷりのラテが好みだけれど、香りだけなら、ホットのブラックコーヒーの、立ち昇る湯気を浴びたいほど。  俺にとってコーヒーは・リラックス効果のある香りなのだ。  彼女は、ブラックコーヒーが好みのようだった。カップを口元にもっていくときに、黒い液体がチラリと見えたからだ。  俺は勝手に、砂糖たっぷりのカフェラテにホイップを乗せるような、甘党のイメージを彼女に持っていたから、軽く驚いた。  まあ、それはそれでなんか面白いなと思ったけれど。  そんなとりとめもないことを考えながら、すっと参考書に気持ちが入っていく。  それがいつものパターンだ。自分でも、その切り替えがどんどん上手くなっているなと感じる。  
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加