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特に暗記物は集中力が必要だ。あっという間に時間が経過していて、時刻を見て驚く、なんてことはしょっちゅうだった。
「どうぞ、カフェラテ。サービスね」
はっと顔を上げると、柔和な顔立ちの男性がすぐ横に立っていた。
「……店長さん」
壁掛け時計を見ると、一時間近く経過していた。
「あ、ごめんね、邪魔しちゃったかな」
「いえ、大丈夫です。ちょうど休憩しようと思ってたので。……ありがとうございます。――あの、いつも長居してすみません」
店長は細い目をさらに細めた。
目じりに細かい皺が浮き、30代前半に見えたけれど、もっと上かもしれないと思う。
「前にも言ったけどそれはホントに大丈夫! ここはほかの店舗と違って店内が淋しい状態だから、むしろ君には感謝してるくらいなんだよ。もっと贅沢言えば、君目当ての若い女の子とかが増えたらうれしいけどねえ」
どう返せばいいのかわからなくて、曖昧に微笑む。
「あ、その余裕たっぷりの顔! まったくなあ、イケメンはいいよなあ、にくいなあ~」
俺も店長くらいの年齢になれば、こうもスラスラとお世辞が出てくるようになるのだろうか。
店長は軽口をひっこめると、「じゃ、ゆっくりしてね」とカウンターへ戻っていった。
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