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 二  オバマ教授のクラスの後、引っ越し以来気に入っていた喫茶店に時子さんを誘った。ダメ元だったが、意外にスンナリと承諾された。彼女はこういう誘いに慣れていると見える。 「いいとこ。穴場だねえ……」  案内された席に着くなり、時子さんが店内を見回して言った。この店の壁地デザインは古風な英国的高級感を演出している。やや敷居が高い(ように見える)たたずまいの、恩恵と言うべきか、昼時でも他の客は二人しかいない。加えて僕が好きなのは、バブル期の曲しか流さない有線だった。  浪漫溢るるJ-POPで自分をリラックスさせていると、バイトの子が注文を取りに来た。彼女は専門学校の同級生だが、一方で人気タレントの娘でもあるらしい。母親とは真逆のおとなしい少女のような子だ。確かマクハリとかいう名前だった。会釈をされ、僕も返した。 「あれ、ミナちゃん?」  彼女を見て、時子さんが言った。 「……あ、先輩! どうも」  振り返った幕張さんも声を上げた。 「ここで働いてんだね! 頑張ってね。なんかおすすめある?」  時子さんは笑顔で尋ねる。大人びて、見ていて安心感を与えられる笑顔だった。 「カレーです」  幕張さんが即答する。僕達が二つ注文すると、彼女は僕と時子さんそれぞれにお辞儀をしてから去っていった。 「俺、幕張さんと同級生なんですよ。先輩も知り合いですか?」  僕が聞くと、時子さんは笑顔を向けてくれた。 「うちのバスケサークルに入る予定の子。まあ、私も二年振りだから新入生みたいなもんですが」 「二年振り?」  二年制の専門学校生が言わなそうな言葉の意味を、僕は尋ねた。 「一年通ったんだけどね。そのあと二年近く病気しちゃってて。今、四年目にして二年生」  時子さんは何でもなさそうに説明する。 「そりゃぁ……もう体は大丈夫なんですか?」 「まーね、奇跡的に」  彼女の微笑みはどこか力強い。充満してくるカレーの匂いの感覚さえ、この時少し麻痺した。 「でも、知り合いいないわ歳も違うわで、アウェイな感じになっちゃって」 「俺もです。よそで中退してから来たんで」  ちょっとした共通点に僕は食いついた。すると時子さんは細目を少し開いた。 「へえ……今何歳? 私二十二」  当時の僕は二十歳と十一ヶ月である。軽く頭を下げた。
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