華に春花を加えて

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 春とは名ばかりで、この世界は弥生に入っても雪で周囲を閉ざされている。  そんな世界で『温もり』というのは最上級の嗜好品だ。 「蓮花? いきなりどうしたの?」  その温もりを惜しげもなく詰め込んだ豪奢な空間の中で、俺はいつになく緊張していた。  そんな俺に、目の前に座した姫が首をかしげる。 「あ、その……えっと……」  今日は弥生の14日。  如月の14日と対になるこの日は、如月に受けた気持ちにお礼を返す日だと白夜城の主に(不本意ながら捕獲されて)聞かされた。  先月に俺は、今目の前に座っている依代から、贈り物をもらっている。  珍しい異国渡りの甘味と、依代お手製の傷薬。  甘味は美味かったし、傷薬はいつものごとく良く効いてくれた。  物も嬉しかったけれど、何より依代からの気持ちが嬉しかったし、はにかみながら贈り物を差し出した依代の笑顔が何よりも可愛かった。
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