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「いや、森では、何もない」
どうしてただでさえ緊張している所に、さらに緊張を強いるような格好をして現れるのか。
そしてなぜ、そこまで無邪気に笑みを浮かべていられるのか。
俺の緊張が高まるにつれ、なぜかそんな八つ当たりめいた文句が浮かんでくる。
「珍しいといえば、依代も。
そんなにお姫さまっぽい格好、久々に見た」
「今の私は、釘猫城のお姫様だもの。
一応普段は、こういう大人しい格好をしているのよ?」
依代は照れたように打掛の両袖を引っ張った。
その頬が、ほんのりと赤く色を帯びる。
「でも、蓮花といる時は……
壁を、感じてほしくないから。
昔と同じように、ただの恋人として接してほしいから……
だから、昔みたいな活動的な衣装に、改めることにしているの」
その頬を隠すように、打掛に包まれた手が口元へ伸びる。
でも、うるんだ瞳は笑みを浮かべたまま俺のことをまっすぐに見ていて。
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