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塩原が逮捕した犯人――村口義則(むらぐち よしのり)は、しばらく黙秘を続けていたが、目の前の沢渡の圧に負けたのか、ボソリとつぶやいた。
「…………金が、必要だっただけだ」
「金?お前、金で人を殺そうとしたってのか?」
口調がキツい訳ではないが、それでも長い刑事生活で培ったのであろう空気が、村口を追い詰める。
その、棒のような細い体、キツネを彷彿させる顔、全てに陰気臭い雰囲気をまとっていた村口は、真っ青になって言い訳する。
「……っ……べ……別に、殺そうとか思っては……」
「じゃあ、どういう事だ?」
「ネットで見つけたんだよ!この時間に、ここを通る男を刺したら百万、なんてふざけた書き込みがあったから……半信半疑で行ってみたら、植え込みに本当にナイフと金が置いてあって……」
沢渡はすぐに塩原に目をやる。
塩原は部屋を出ると、聡子に連絡を取った。
『了解。こっちのサイバー課に依頼しておく。詳しい事が分かり次第、また連絡してくれ』
塩原はすぐに部屋に戻り、視線だけを向けた沢渡にうなづいて返す。
「こっちはこの年だから、インターネットとかは疎くてね。もう少し詳しく説明してくれねぇと、ちんぷんかんぷんなんだがな」
村口は視線をそらすと、ポツリポツリとこぼしていく。
今更ながら、自分がやった事の重大さを感じているのか、その声は震えていた。
「ネットで金になりそうな仕事探してたんだよ。……そしたら、知り合いからここで最近いい金になる仕事が紹介されているからどうだ、って教えてもらって……」
「――……知り合い?」
「本名とかなんて知らない。それこそ、そいつともネットでやりとりしているだけだから」
村口はそっぽを向きながらも、とりあえずは素直に自供を始めた。
塩原は沢渡と村口を交互に見やり、その表情や口調、間の取り方、様々な事を頭に叩き込む。
実際にこうやって取り調べに関わるのも、それこそ、犯人を逮捕するなんて事も初めての経験なのだ。
吸収できるものは全てしてやろうと意気込む。
数十分して一段落すると、沢渡は塩原に一旦外れるよう指示を出した。
「係長に報告。お前も気合いが空回りすると悪いからな、少し休んでこい」
少々不服ではあったが、何十年も先輩の沢渡の指示には従わなければならない。
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