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塩原は取調室を出ると、刑事部屋に向かう途中で、かの子に今現在の状況をメールした。
かの子からはすぐに返信が来たので、とりあえずはホッとする。
頑張って、とあって塩原は気合いを入れた。
我ながら単純な気はしたが、好きな女の子に頑張れと言われて頑張らないヤツはいないだろうと開き直る。
かの子の今の状況は分からないが、何事も無いことを願ってメールを返すと、塩原は聡子のもとへ報告に向かった。
被害者は成島弘明、二十歳。プロフィールは割愛。
東裕美の自宅アパートに向かう途中、左わき腹をナイフで刺され重傷だったがその後手術は成功、意識が戻り次第一般病棟に移れるとの事。
容疑者、村口義則二十八歳。S市在住。前科は無し。職業はフリーターと言ってはいるが、今は無職。ネットで働き口を探しており、その際交流のあった人間に裏サイトを紹介されたらしく、見てみると人を刺せば百万円、というふざけた書き込みがあったと。半信半疑で現場に向かうと、指示されていた植え込みに現金が入った封筒とナイフが置かれていて、犯行に及んだとの事です。
その金を持ち逃げするのはルール違反であり、ペナルティもあると。実際、数か所から監視しているとの注意書きもあったそうなので、行動を起こす他は無かったそうです。
村口にはかなりの額のギャンブルでできた借金があり、すぐにでも現金が必要だったので、あとはなるようになれ、とばかりに犯行に及んだそうで。
そのサイトの運営者などは一切知らないらしいです。
一通りの報告を終えると、塩原は聡子をうかがう。
何か落ちている所は無いだろうか。
腕組みをしながら、聡子はしばらく無言でいたが、不意に塩原を見上げて尋ねる。
「サイト自体はもう閉鎖されているらしいが……それは、西潟が作り上げたという可能性は無いか?」
「え」
「かのちゃんが先日見たという西潟が置いた金とナイフ。状況は同じだ。ならば、そのサイトは西潟が復讐のために作ったものだという事にならないか?」
「で……でも……星の数ほどありますよ、サイトなんて。どうやって村口にそこまでたどり着かせる……」
塩原が反論をやめた。
紹介者。それは西潟だ。
「だな。……もしかしたら、西潟自身、村口と接点があったのかもしれん」
「え、でも村口は知らないと……」
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