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「南條さん、今、かのちゃんと一緒ですか?」
『いや、病院から直接家に帰した。オレは死体遺棄事件の方だ。また西潟を張り込んでる』
「…………かのちゃんからメールは?」
塩原の固い声に、南條は不審気に問い返す。
『そんな必要無ェだろ。今はお前のほ――……』
言いかけた途中で気づいたのだろう、不自然に言葉が切れた。
『――……またか』
「…………思いたくは無いンスけど、可能性は十分すぎます。東裕美の方に触発されて、長谷倉に会っているんじゃ……」
自分で言っていて、唇を噛んだ。
どうして、キミはいつもそうなんだよ。
俺は、そんなに頼りにならない?
『分かった。駅南方面ならオレの方が近い場所だ。長谷倉のマンションの正確な位置を教えろ。すぐに向かう』
塩原は一瞬ためらったが、かの子の身の安全を優先した。
南條に任せ、通話を終了すると、すぐに住所と簡単な目印を添えてメールした。
そして、聡子に許可をもらって自分の車まで全速力で向かうと、安全運転とは言えない急発進で、自分も長谷倉のマンションに向かう。
南條に全て任せるつもりは毛頭無い。
おおよそ普通にかかる時間の半分で、塩原はマンション前に到着した。
長谷倉のマンションが見える頃には、辺りは薄暗くなっていて、エントランスの照明だけがうっすらと光っていた。
急いで車から降り、塩原は駆け込もうとした。
だが、足がそれを拒否した。
視界に入るのは、南條に抱き着いているかの子の姿。
そして、それを守るように抱え込んでいる南條の姿。
それは、あまりに違和感が無く。
時折、南條は愛おしそうにかの子の髪を撫でる。
その姿は、どこか淋しそうで。
――……ああ……やっぱり、好きなんじゃないか――……。
塩原は目を伏せ、車に戻る。
座席を思い切り下げると、その長い脚を片方抱え込んだ。
分かっている。
分かっているつもりだった。
かの子の中に南條が居座っている事も、南條がかの子から完全に離れられない事も。
でも、自分と一緒にいる時間が増えていけば、もしかしたら、それは過去になるかもしれない。そう思っていた。
……本当に、そうなのか?
塩原は唇を噛みしめる。
苦いものを無理矢理押さえつけるように。
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