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どれほどそうしていたのか、マンションから二人が手をつないで出てくるのを視界にとらえると、塩原は反射的に車から飛び出す。
「かのちゃん!!」
かの子は塩原を見ると、慌てて手を振りほどいた。
「ゆ……悠司さん……」
真っ赤になった目で、塩原を見上げるかの子の表情は、どこか気まずそうな雰囲気で。
それは、やはり後ろめたさを感じているのか。
「……帰ろう。……南條さん、ありがとうございました。後は俺が連れて帰りますから」
「――……分かった、頼む。……嬢ちゃん、次は無いと思えよ」
かの子は南條に視線を向けると、ばつが悪そうにうなづいた。
南條が自分の車に乗り視界から消え去ると、塩原はかの子を車に乗せた。
「……あの……悠司さん……」
「帰るよ」
「……うん……」
自宅マンションに着くまで、終ぞ、塩原は口を開く事は無かった。
聡子に無事にかの子を保護した旨を連絡すると、塩原はそのまま南條が使っている部屋に入る。
何かを言いたそうにしているかの子を見ず、逃げるように。
しばらくは、かの子も自分の部屋にいたのか、気配を何も感じなかった。
だが、遠慮がちにドアがノックされ、そっと開けられる。
ほんの数センチの隙間から、かの子が顔を出し、聞き逃しそうなほど小さな声で、塩原を呼んだ。
部屋の電気はついていたが、うつむき加減になっているかの子の表情は、ベッドに座っていた自分には確認できなかった。
「――……ごめん、なさい……」
「…………何が」
我ながら刺々しい声色で、かの子がビクリとおびえたのを視界にとらえるが、今、こんな気持ちのままでは、とてもじゃないが、かの子と向き合えない。
そんな塩原の気持ちを知る由も無いかの子は、そのままドアを開けると、再び頭を下げた。
「……あたし……裕美さんがあんな風になってしまって……早く事件解決したいって思って……それで、長谷倉から……」
違う。イラついているのは、そんなんじゃない。
けれどそれは口には出せない。
かの子自身に、おそらく自覚は無いのだ。
無言のままの塩原に、かの子は頭を下げたままだ。
その肩が徐々に震えて、嗚咽をこらえているのに気づくが、塩原は動かない。
動けない。
先程の二人の姿がよみがえり、優しく触れてあげられる自信が無いのだ。
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