塩原 7

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それどころか、そのまま首に両腕をからませ、塩原と離れるのを拒むかのようだった。 「……かのちゃん、ごめん。嫌ならやめるから」 キスをしながら、塩原は言う。 本当にやめられるかは自信が無いけれど。 それでも本気で抵抗されたら、無理矢理にでも理性を引っ張り出す準備はあるのだ。 「……悠司さん……上書き、して」 不意にこぼれた言葉に、塩原は止まる。 「……かのちゃん?」 上書き?何を?どうして? 次々と浮かぶ疑問に抗えず、塩原は起き上がり、かの子を引き上げるようにして起こした。 「……かのちゃん、どういう事?」 かの子は塩原を見上げ、そして、下を向いた。 まるで隠し事がばれて怒られる子供のように。 「……長谷倉に……」 塩原は一瞬声を上げそうになったが、必死で耐えた。 ここでかの子をおびえさせる訳にはいかない。 「…………逃げたかったけど……でも、そうしたら情報源無くなっちゃうって思って……」 「……どこまで、されたの」 少しだけかの子は固まる。 だが、 「最悪にはなってないから、大丈夫なんだけど……」 そう無理に明るく告げた声は、震えていて。 塩原が改めてかの子を見ると、その首筋や鎖骨の辺りに赤いうっ血痕があるのに気がついた。 「……ごめん、俺……」 「ち……違うよ!悠司さんにされるのは気持ち悪くない!……嬉しいと思う……」 目をそらす塩原に、慌ててかの子が取り繕うように言った言葉は、塩原の胸をきつく締めつける。 「……だから……悠司さんに触ってもらえたら、アイツの感触も無くなるかな……って思って……」 だんだんと小さくなっていく声に、塩原はそっとかの子を抱き寄せた。 「こうしてるのは、大丈夫?」 「うん」 「キスは?」 「……してほしい……」 塩原は軽くかの子に口づける。 焦らなくていい。先なんてまだまだある。 素直にそう思えた。 「……かのちゃん」 「……うん?」 「――……ありがと……。俺の事、好きって言ってくれて……。受け入れてくれて……」 かの子は塩原を見上げて、恥ずかしそうに微笑んだ。 そのまま、二人で夕飯を作っていると、聡子から塩原に連絡があった。 未だ、西潟のサイトの痕跡が見つからないので、慎太郎の方にも協力を要請したそうだ。
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