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首を思い切り横に振る。
それが気に入らなかったのか、長谷倉はかの子の両の胸をわしづかみにした。
「きゃあっ!!」
誰も触れる事のなかったそこに乱暴に触れられ、かの子の意識はついに飛び去った。
"あっちの世界"へ。
「……?かの子ちゃん……?」
自分が自分で無いような感覚。聞こえているのに、返事もできない。
いぶかし気にのぞき込む長谷倉に、かの子からの言葉は何一つ無かった。
そこで長谷倉はようやく異常に気がついたらしく、かの子から離れ、その視線はかの子の腕で止まった。
ああ、見られちゃった……。
近しい人間にだって、自分からは決して見せようとしなかったそれは、図らずも嫌悪している人間に見られてしまった。
「……かの子ちゃん……大丈夫……?」
大丈夫なら、こんな事にはなっていない。
そう言いたかったが、言葉は出てこない。
視線を動かす事もなく、その裸体を隠す事もなく、ただ見上げているかの子が心配になったのだろうが、長谷倉はおろおろするばかりだ。
ああ、どうしようかな……。
ここには南條はいない。
この状態を頼れるのは南條だけなのに……。
「何だよ、コレ。どうなってんだ?!ねえ、かの子ちゃん!?」
辛うじてそばに脱ぎ去っていたかの子の服をかけながら、長谷倉は何とかかの子の反応を見ようと必死だ。
「聞こえてる!?どこか悪いの、かの子ちゃん!」
長谷倉は一旦息を吐くと、スマホを取り出し、電話をかけた。
「あ、西田!?ちょっと来てくれねぇ?マズイ事になってるみたいなんだけどさ」
立ち上がった長谷倉は、かの子をそのままにして、部屋を出た。
今、西田って言ったよね……。
そうだ。あたし、自分の事でいっぱいいっぱいになってる場合じゃない。
西田が来るのなら、それこそ次の詐欺がいつだとか、手段とか、実行するメンバーとか聞き出さないと……。
じゃないと、あたしはただの役立たずだ。
かの子は外をさまよっていた意識を力づくで手繰り寄せ、深呼吸した。
手を握り、そして開く。
息を大きく吐くと、ゆっくりと起き上がった。
……うん。何とか戻れた……。
スルリと体から落ちた服を慌てて引き留め、かの子は部屋を見渡した。
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