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「エレベーター、こっちがエントランスの方につながってるからさ」
そう言って、来た時のエレベーターの隣を指さした。
「……分かりました。……今日は本当にすみませんでした」
かの子が頭を下げると、長谷倉は珍しく殊勝な顔で、否定をした。
「ううん、オレが悪かったんだよ。……本当、ごめん」
それでも視線をそらそうとしないので、かの子は本当に反省をしてると見て、もう一度頭を下げた。
「いいえ。あたしも悪かったんです。……あの……もう、会えないですか?」
「そんな事ないよ。もちろん、連絡するから。……かの子ちゃんの準備ができるの待ってるからさ」
良かった。何とか情報源は失わずに済んだ。
かの子は一礼をして、エレベーターに乗り込む。
十秒もかからずに到着すると、ポン、と無機質な音が響き、ドアが開く。
かの子が下り立つと、目の前のガラス扉の向こうに、南條が待っていた。
その瞬間、かの子の中の張りつめていた糸が、プチンと音を立てて切れた。
かの子は駆け出すと、扉が自動で開くのを無理矢理手で開け、そのままの勢いで南條に飛びついた。
「嬢ちゃん!?」
南條の慌てた声に、かの子の涙腺は完全に崩壊した。
泣き出したかの子を南條は離そうとせず、更に抱き寄せた。
それだけで、かの子の心は落ち着きを取り戻す。
どれだけそうしていたのだろう。髪を撫でていた南條が、気まずそうにつぶやいた。
「……大丈夫……じゃねぇよな……」
しゃくりあげながら、それでもかの子は南條から離れられなかった。
今はただ、こうしていたかった。
「……嬢ちゃん……前も言ったけど、キツかったらやめていいんだからな」
その言葉は、聞こえないふりをした。
大丈夫だ。まだ、やれる。
あたしは人殺しだから。自分のわがままで、みんなを傷つけたんだから。
だから、償わなければならない。
かの子はようやく泣き止むと、気まずくなってしまい、南條から離れようとしたが、逆に抱き込められて、それはかなわなかった。
「南條……?」
「…………強がるな……。……オレがいるから……」
「…………うん……」
素直にうなづいてしまったが、かの子は南條の腕から逃れた。
「嬢ちゃん?」
忘れちゃいけない。あたしは悠司さんの彼女だ。
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