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――……そして、南條にだって、彼女がいるんだ。
南條の言葉にすがりたくなったが、かの子はすんでのところでブレーキをかけた。
裏切るなんてできないし、させたくない。
いぶかし気にのぞき込む南條を見上げると、かの子は笑った。
無理矢理に、自分の今できる最高の笑顔を作り上げて。
「……ごめん、南條。……心配かけて」
「……嬢ちゃん?」
「でも、悠司さんが、待ってるから」
南條の体がビクリとする。
そして、一拍おくと、かの子をゆっくりと離した。
「…………そうだな……悪い。塩原から、嬢ちゃんの連絡が無ェって電話が来たんだよ。……オレの方が近かったから、迎えに来たんだ」
「……そっか……ありがと。……後で悠司さんに謝っておくよ……」
「――……そうしてくれ」
南條はかの子の手を取ると、そのままマンションから出る。
「……南條?」
「塩原に渡すまで、逃げ出さない保証は無ェからな」
「……信用ないな」
「自分の身を振り返るんだな」
「……おばーちゃんにも同じコト言われた」
「全員一致の意見って事だろ、それ」
間を持たすように続けられた会話は、塩原の声で途切れた。
「かのちゃん!!」
かの子は塩原を見ると、慌てて手を振りほどいた。
「ゆ……悠司さん……」
塩原を見上げると、その雰囲気は明らかに不機嫌――……いや、怒っている。
南條に礼を言い、塩原はかの子とともに車に向かう。
「……あの……悠司さん……」
「帰るよ」
「……うん……」
自宅マンションに着くまで、終ぞ、塩原は口を開く事は無かった。
母親に連絡を入れると、塩原はすぐに部屋に入った。
かの子は何とか話すきっかけを、と思ったが、こんな時に限って何も思い浮かばない。
部屋に入って、ベッドに座り込む。
塩原が怒っているのは、やはり自分の軽率な行動のせいで。
とにかく謝るのが先決だ。
何とか気力を振り絞り、かの子は塩原の部屋のドアをノックする。
返された返事がこわばっていたので、恐る恐る数センチほど開けると、塩原は部屋のベッドに座っている。
いつもの塩原とは全然違う雰囲気で、つい、うつむき、声も小さくなってしまったが、かの子は謝罪の言葉を口にした。
「――……ごめん、なさい……」
「…………何が」
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