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刺々しい声色で返され、かの子はビクリとする。
だが、ここでひるんじゃダメだ。
悪いのはあたしなんだから。
かの子は、そのまま思い切ってドアを開けると、再び頭を下げた。
「……あたし……裕美さんがあんな風になってしまって……早く事件解決したいって思って……それで、長谷倉から……」
無言のままの塩原に、かの子は頭を下げたままだ。
――……やっぱり、ダメかな……。
本当に愛想が尽きたんだろうな……。
徐々に涙があふれてくるが、かの子はこらえる。
あたしが泣いてどうする。
何度も何度も辛い思いをしているのは、悠司さんじゃない。
「――……あのさ……。……俺、そんなに頼りない?」
「え?」
不意打ちの質問に、かの子は涙目のまま顔を上げる。
塩原は顔だけをかの子に向け、そう尋ねた。
「俺は、かのちゃんの何なのかな」
塩原の質問が、かの子の心に突き刺さった。
――……ああ、そうか。
ようやく、塩原が引っかかっていたものに気がついた。
あたしのせい。
あたしが、南條にばかり寄りかかっているから。
――……なら、自分にできる事は一つだ。
かの子は口を開きかけ、躊躇する。それを数回繰り返す。
だが、意を決して塩原の元に直進し、ぶつかるように抱き着いた。
「……かのちゃん?」
「――……ごめんなさい。あたしのせいで、悠司さん傷つけて……」
何かを言いたそうにしていた塩原が口を開く前に、かの子は塩原の唇に触れた。
目を見開く塩原に構わず、つたないながらも、かの子の唇は何度も離れては触れる。
「――……かのちゃん……」
わずかにできた空間で、塩原は息を吸い込み、かの子を呼ぶ。
涙目のまま、首元に抱き着くかの子を、塩原はようやく抱き留めてくれた。
一旦息を吐くと、かの子は宣言するように言った。
もう、戻れない。
一瞬だけ南條の姿が浮かんで、消えた。
「あたし、悠司さんが好き」
「え」
「こうやってキスできるのは、悠司さんだけだもん。……これって、好きって事で良いんだよね?」
あまりに不意打ちの告白に、塩原は固まる。
その反応に、かの子は不安そうにのぞき込んだ。
「……もう、遅い……?」
塩原はゆっくりと首を横に振った。
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