かの子 23

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そして、自分から深く口づけると、一旦かの子を離す。 「……全然……!」 一筋だけ、塩原の目から涙がこぼれ、かの子はそれを見て、目を見開く。 「あ、いや、気にしないで。……何だろ……」 急いで塩原はそれを手でこすろうとするが、かの子がその手を取り、自分の指先でそっと触れた。 「――……かのちゃん……」 「ありがと……悠司さん……。――……待っててくれて……」 こんな自分を見捨てる事なく、辛抱強く待っていてくれた。 それだけで、かの子にはありがたかった。 はにかみながら、目を伏せるかの子を、塩原はそっとベッドに横にする。 そのまま身を任せると、塩原が慎重にかの子の体に触れた。 一瞬だけビクリとしたが、かの子は抵抗しない。 更に、塩原の首に腕を回した。 「……かのちゃん、ごめん。嫌ならやめるから」 多少は驚いたのだろうが、それでもキスをしながら、塩原は言う。 嫌なんて事はない。 長谷倉に触れられた事を、無かった事にしてほしい。 「……悠司さん……上書き、して」 不意にこぼれた言葉に、塩原は止まる。 「……かのちゃん?」 塩原は起き上がり、かの子を引き上げるようにして起こした。 「……かのちゃん、どういう事?」 かの子は塩原を見上げ、そして、下を向いた。 まるで隠し事がばれて怒られる子供のように。 「……長谷倉に……」 それだけで塩原には想像がついたらしい。 「…………逃げたかったけど……でも、そうしたら情報源無くなっちゃうって思って……」 「……どこまで、されたの」 少しだけかの子は固まる。 だが、 「最悪にはなってないから、大丈夫なんだけど……」 そう無理に明るく告げる。 大丈夫。 だから、お願い。やめないで。 「……ごめん、俺……」 「ち……違うよ!悠司さんにされるのは気持ち悪くない!……嬉しいと思う……」 目をそらす塩原に、慌ててかの子が取り繕うように言う。 「……だから……悠司さんに触ってもらえたら、アイツの感触も無くなるかな……って思って……」 だんだんと小さくなっていく声に、塩原はそっとかの子を抱き寄せた。 「こうしてるのは、大丈夫?」 「うん」 「キスは?」 「……してほしい……」 塩原は軽くかの子に口づける。
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