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戸惑う南條に構わず、かの子は駆け出し、扉が自動で開くのを無理矢理手で開け、そのままの勢いで南條に飛びついた。
「嬢ちゃん!?」
そのまま勢いよく泣き出したかの子に驚くが、離さずに更に抱き寄せた。
泣きじゃくるかの子に異常が無いか確認したかったが、今はとにかく落ち着かせようと、下ろしていた髪を撫でる。
徐々に感情が落ち着いてきたのか、しゃくりあげるようにするかの子に、南條は小声でつぶやくように言う。
「……大丈夫……じゃねぇよな……」
それは問いかけではなく、断定。
「……嬢ちゃん……前も言ったけど、キツかったらやめていいんだからな」
わざわざ身を削るような真似を、誰が望むのか。
だが、かの子は、その言葉を聞こえないふりをする。
そしてようやく泣き止むと、気まずくなってしまったのか南條から離れようとするが、逆に抱き込める。
今はまだ、こんなかの子を離したくは無かった。
「南條……?」
「…………強がるな……。……オレがいるから……」
「…………うん……」
思わずこぼれた言葉に、珍しく素直にうなづいたかの子は、だが、南條の腕から逃れた。
「嬢ちゃん?」
かの子は何かを耐えるように、そして、顔を上げた。
それは、南條が今まで見た事も無いような、悲しそうな笑顔で。
一言。
ただ、一言だけで、南條の動きを止めた。
「悠司さんが、待ってるから」
――……ああ、そうだな。
……他人の彼女、だったな、お前は。
南條は何も気にしない風で、うわべだけの会話をかの子と交わす。
そして、マンションから出れば、塩原が待っていた。
無意識なのか、その視線は完全に南條を敵視しているように見えた。
……分かってる、邪魔なんてするつもりもねぇよ。
苦笑いで、かの子を塩原に渡すと、南條は停めていた自分の車に乗り込み、再び西潟の張り込みに戻る。
――……本当に、分かっているのか……?
自分に問いかけ続けるが、答えなんて出るはずもなかった。
翌朝、聡子から成島の容態が落ち着いたので、一般病棟に移るという連絡が入った。
永桶に声をかけ、そちらに向かう。
事情聴取には塩原も向かうらしい。
だが、捜査である以上、私情は挟まない。
お互いに。
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