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「ああ、すまない。つい大声になってしまった」
裕美は自分に向かって頭を下げる聡子を、目を丸くして見返す。
その反応を見て、初対面である事に気がつくと聡子は頭を下げた。
「申し訳ない。騒々しくしてしまった。県警捜査二課二係係長、北大路聡子だ。そこにいる北大路かの子の母でもある」
「あ……東裕美です……」
後ろめたい事が山ほどあるせいか、裕美の声が心なしか小さい。
だが、それを気にも留めず、聡子は話を続けた。
「成島弘明はまだ目覚めないか」
誰に問うでもなく、聡子は言う。
「あ、ハイ。それで、一旦は引き上げるか、待っているかという話の最中で」
代表して南條が返事をした。
それはこの中では自分が適任に思えたからで。
「でっ……でも、ママ、そんなに急いでどうしたの?」
かの子が張り合うように、聡子に質問を投げると、南條はつい視線を向けてしまう。
――……それだけなのに、罪悪感を覚えてしまった。
「ああ、それなんだが、昨日からずっとサイバー課の方で西潟が作ったであろうサイトを探していたんだが……。ようやく、それらしき痕跡を見つけたと思ったら、一瞬ですべてのパソコンが使い物にならなくなってしまったんだ」
「え……全滅ですか!?」
驚いた塩原が声を上げ、慌てて手で口を押さえた。
「――……サイバー課のヤツが言うには、こうやって探されるのを見越してたんだろうと。……成島弘明は、この方面に強いんだろう?何か手が無いかと思って聞きに来た」
「……そっちの都合次第で、利用するって言うんですかぁ?」
「成島さんっ!!」
不意にかかった声に全員がそちらを向くと、成島が目を開けてこちらを眺めるように見ていた。
裕美が急いで様子を確認する。
「今、ナースコールするから……」
そう言って伸ばした裕美の手は、成島に捕らえられた。
「そんなに急がなくても大丈夫だよ」
「でも……」
不安気な裕美を見て、成島は口元だけを上げる。
「大丈夫だよ。これくらいじゃ、オレは死なないから」
そうは言っても、その青白い顔を見れば強がりだと分かる。
「それより、裕美ちゃん。……コレは一体どういう状況なのか、説明してくれない?」
裕美は気まずそうに野澤を見上げる。
野澤はうなづき、口を開いた。
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