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プロローグ
――アタシハ、ヒトゴロシダ――……。
窓の外を見下ろせば、じわりじわりと赤が広がっていく。
マンションの五階からなのに、その姿ははっきりと網膜に焼き付いた。
「お嬢さんっ!見ちゃいかん!」
「もう手遅れです!!」
窓の外へ吸い込まれて行きそうなあたしを、力の限り押さえこみながら、刑事たちが叫ぶ。
――分かってる――。全て、あたしのせいだって。
――でも――……。
「松村さん!……松村さん……っ……!!」
呼びかけても、応えは無くて。
あたしは、振り返ってこちらへ銃を向けたままの、その男をにらみつけた。
その男も、それに応えるように、にらんで返す。
だが、次には崩れ落ちるように、前に倒れこんだ。
そこには、男の右腕から流れ出たおびただしい量の血液。
周りにいた男たちが、慌てて男の名前を呼びながら駆け寄る。
あたしは、そこで初めて、その男の名前を知った。
――……『南條』……と……。
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