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プロローグ
『先生――……あたしね、ちゃんと幸せだったよ――……。
でも、もう、終わりにしよ……?』
あたしは、先生の瞳を見つめて微笑んだ。
怖くなんか、ない。
幸せだった時間を抱えて、死ねる。
あたしは、先生の手ごと、引き金を力任せに引いた――。
「和沙、どうした?ぼうっとして」
声のする方に横たわった体ごと向くと、先生がいぶかし気にあたしをのぞき込んでいた。
「ううん、何でもない」
あたしが首を振ると、先生は軽くキスをしてきたので、あたしは彼の首に両腕を回して、それに応える。
「先生――……大好き」
うわごとの様につぶやくと、先生は唇を離し微笑んで、ベッドに広がったあたしの髪をすく。そして更に深く口づけた。
この時だけは、あたしはすべて忘れられる――……。
自分が何者なのかも、課せられた義務も。
……すべて、忘れられたらいいのに――……。
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