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バッグを物色し終えた彼女はホッと一息ついた。
「良かったあ。武器の類はない。私、てっきり密室でデスゲームやらされるのかと思いましたよ」
「どうして?」
「いや、密室で見知らぬ人間同士が殺し合うって携帯小説のテンプレじゃないですか。でっかい時計なんてそのものズバリですよ。……あれ、もしかして私携帯小説読むの好きだったかもしれません」
「もしかして、昨日の事覚えてたりします?」
今はどんな些細な情報も欲しい。限られた制限時間内で、何かして外に出なければいけない。
俺は訳のわからない焦燥感に後押しされ、目前にいる地味目な亜麻色セミロングの彼女から、覚えている限りの事を列挙させた。
以下は列挙した事項だ。
・今朝、家を出る前の記憶はある。ただし、名前も仕事をしているのか、何歳なのかも覚えていない。
・昨日は家族とすき焼きを食べて寝た
・何かの予約を今日していた、前述のすき焼きはその祝いだそうだ
・お目かしをしてきている(俺にはそう見えなかった)
・スリーサイズと体重は覚えているが、教えない
(割とどうでも良かったが、彼女は頑なに拒んだ)
最後が一番重要な点だった。
「ここを知ってるんですか?」
「はい。どうしてなのかわからないんですが、覚えがあるんです。あなたも何か思い出したりしませんか?」
「恥ずかしながら、全く覚えてません」
くそっ、と俺は苛立つ。
もう時間が1時間をきっている。仮に、彼女の言う通りデスゲームでないとして、主催者は一体どんな目的で2人の記憶を奪い、わざわざ手の込んだ密室に寝かせたんだ?
無論デスゲームなんて俺は、はなから信じてないが。
刻々と時間が過ぎていく中、彼女はカバンの中から掌にすっぽりおさまる程の赤色のボタンスイッチを取り出す。
俺は単純なミスをしてしまう。どうして、一番最初にカバンの中身をを確認しなかったのかと。
不思議な事に俺の思考では、他人の物を探ったりするのは絶対的に禁止されている結論に至っていて、ルール違反であった。
大変申し訳そうにしながら彼女は話す。
「このスイッチを押せば、あなたの記憶が戻るそうです」
どういう事だ?
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