きっと彼は夢を見るだろう

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頭の中で必死で整理しようと梓はカバンから白紙のメモ帳とペンで今までの要点を記載していく。 「そんな……記憶がなくなってるのに、またなくなるの?」 「そう。わざわざ大金使っても、一時の夢しか買えない、偽者のな。このサービス自体、秘密裡に行われているし違法だからな。そのリスクをしょってまで、梓、お前は俺に会いたかったのか」 ぼんやりと梓は研究員からこの部屋の説明を受けていた事を思い出した。 研究員は何度も考え直すよう説得したが、梓は頑なに拒んだ。 だって…… 「……えっと、体は偽者だけど心は本物なの?」 「まあそういう事になるな。後、サービスが終わったら、管理者にお話しをしておけば、記録から探ってミスがわかる。きっと、返金してもらえるはずだ」 タイマーが10分を切る。 俺は梓を抱きしめた。 「ずっとこうしたかった」 梓はどぎまぎしながら、泣いている。 「あれ、私なんで泣いてるんだろう。なんだか、懐かしくて安心して」 「俺も生身だったら同じ状況になってたろうよ」 あっ、と梓が叫ぶ。 「思い出した!由伸さんに逢いたくて。病気でいなくなってしまってから、ずっと寂しかった」 後3分。 抱擁を解き、俺は梓の肩を掴む。 「梓、もう先の人生歩け。俺は放っておけ」 「できない」 「うるさい。死んだ俺に逢えたんだ。奇跡は二度起こらない」 梓は黙り、涙を拭う。 一分を切った。 「梓、また忘れるだろうけどお前の事愛してるぜ」 「私も」 「さっきの涙でも思ったんだが、もしかして体は忘れていないのかもしれないな」 「えっ?」 「お前の心が忘れても、きっと体は覚えている。大丈夫、お前は次へ歩ける」 「意味わかんない、勝手に納得しないで」 「大丈夫だ、お前と一緒だった俺が言うんだ」 15秒を切った。 「なら思い出さないように、梓のスリーサイズと体重でも話すか。B80W69H80、体重は……」 「あー、やめて!」 5秒 「100kg」 「嘘をつくな、嘘を!」 1秒 「47だろ。全く最高の女だったよ」 由伸の無邪気な笑顔が、また意識を喪失する梓の見た最後の光景になった。
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