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「マジかよ。ロボットって嘘つけましたっけ」
部屋に隠された監視カメラから観察していた若手の研究員が呟く。
「わからねえ。あのロボット、幽霊だと嘘ついて彼女の恋人の振りしてたのか、かなり怖ええ。訳分かんねえ」
禿頭の太縁眼鏡をかけた壮年の男は、ぶるっと身をすくませる。
「まあ、とりあえず上に報告するしかないですよね。前代未聞だわ」
「ああ早く報告書仕上げろよ」
仕事を終え、2人は禿頭の家で宅飲みをする。
禿頭の研究員は自身の見解を話す。
「ただまあ、あの時のロボットの挙動、もしかすると自我があったかもしれねえな」
「ロマンですねえ」
「うるせえ、確かにデータ自体は俺達が入力したもんだったが、あの女を振り切らせる為に行動したのは、紛れもなくロボットがやった事だったんだよ」
「ロボットが人間の機微を理解し、前向きな方向性へ誘導した……信じられないなあ」
「でもよお、あの女覚えてるか?」
ビール瓶を空にし、しみじみと若手は語る。
「覚えてますよ、実にいい晴れやかな顔をしてましたね」
「あのロボット……いやあの時のアイツは、きっと持ってたんだろうな」
「何を持ってたんです?」
「人間で一番崇高で純粋な感情、愛情だよ」
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