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夕日が沈んでいく黄昏時――人気の無い住宅街に、手を繋いで歩く仲睦まじい親子の姿があった。
年端もいかぬ幼い少年は右手で母親の手を握り、左手にはゲームソフトが入った袋を持ってニコニコとしている。
母親の方は、上機嫌な息子を優しげな眼差しで見つめている。
「やったあ、やったあ。あたらしいゲームかってもらったって、みんなに じまんしようっと!」
語尾に音符マークが付いていそうな弾んだ声で少年が言い、母親がクスリと笑う。
「おかあさん、はやく かえろうよ!」
不意に少年が母親から手を離し、思いきり駆け出した。
早く家に帰ってゲームで遊びたい――その思いが少年を突き動かしたのだろう。
「こら、勝手に行くんじゃありません!」
一人で先に進もうとする息子を走って追いかける母親。
一足先に駆け出していた息子は、今まさに曲がり角の向こうに消えようとしている。
そんな彼の すぐ後ろまで追いついた母親は手を伸ばし、肩を掴もうとした。
だが――
伸ばした手は何も掴めなかった。
何故なら、目の前に居た息子の姿が一瞬で消え去ったからだ。
息子が消えると同時に母親の目の前を風が勢いよく横切り、視界外から鉄骨が落ちてきたような衝撃音が響いた。
突然の出来事に絶句する彼女が恐る恐る、音がした右方向へ顔を向けると、そこには電柱に正面衝突している軽自動車、そして――
車と電柱の間で、原型を留めずに潰れている息子の姿があった――
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