第1章 差し出された手

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10月中旬 昼下がり 東京都内 雨が しとしと降り注ぐ中、児童養護施設の自室で、1人の少女が床に座り込んで手紙を読んでいた。 『小春(こはる)おねえさんへ ありさは、おうちに帰ることができるそうです。 菜々子おばあさんが、おかあさんが ありさをむかえに来てくれるんだって、もう ありさを たたいたりしないって、言ってました。 だから、ありさは おうちに帰ります。 小春おねえさんにもサヨナラ言いたかったけど、インフルエンザが うつるといけないからって止められて言えなかったです。 だから代わりに手紙を おいていきます。 小春おねえさん さようなら。小春おねえさんも、いつか だれかが むかえに来てくれますように』 幼い子供らしい、上手いとは言えないけれど丸くて可愛い文字で綴られた手紙。 それを読み終えた少女は微笑を湛えると、折り畳んで封筒の中に戻した。 (…………有紗(ありさ)ちゃん……お母さんが迎えに来てくれたんだ、良かった……) 封筒を見つめる少女の眼差しは とても優しい。 彼女の名は御法川 小春(みのりかわ こはる)。 この児童養護施設で暮らしている15歳の少女である。 腰の辺りまで伸ばされているダークブラウンの髪と眼鏡が特徴的で、華やかさより地味さが目立っていた。
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