第1章 差し出された手

3/61
前へ
/126ページ
次へ
(でも、有紗ちゃんが居なくなって寂しいな……友達だったのに……) 有紗とは小春と仲が良かった、彼女より7歳も年下の少女だ。 彼女は母親からネグレクト(育児放棄)を受けており、養護施設で保護をされていた。 だが一週間ほど前に心を入れ替えた母親が有紗を引き取りに来て、彼女は無事に自宅へ戻れたのである。 めでたくはあるが、有紗が施設を出た日に小春は丁度インフルエンザに かかって寝込んでいた為、お別れの挨拶が出来なかったことが唯一の心残りだった。 それに小春が この施設で友達と呼べる相手は有紗だけであり、彼女が居なくなったことで小春は また孤独になってしまった。 (…………悲しんでちゃ、ダメ……だよね。有紗ちゃんは大好きな お母さんと また暮らせるようになったんだから……喜ばなくちゃ) 微かに滲んできた目尻の涙を拭い、気合いを入れるように頬を叩き、ゆっくりと立ち上がる小春。 有紗からの手紙は机の引き出しへ仕舞い、彼女は扉を開けて部屋の外に出る。 すると扉を閉める際、外側のドアノブに小さな紙が貼り付けられているのが分かった。 『人殺しの一族』――そう殴り書きされている紙を見て、小春の顔が悲しげに歪められる。 いつものこととは言え、やはり心は痛む。 小春が このような嫌がらせを受けるようになったのは、母親である御法川 冬子(とうこ)が逮捕されてからだ。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加