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少し口うるさい所もあったけど、おしとやかで優しかった母――だが それは表の顔であり、裏では連続放火魔として数多くの人間の命を奪っていた。
一軒家やアパートにマンション、時にはデパートやネットカフェ等も燃やしたことがある。
それだけ派手な事件を起こしながら、彼女は放火を始めてから2年間も逮捕されず、去年ようやく捕まったのだ。
数えきれない程 多くの人間を死なせた冬子に下された判決は、当然のように死刑だった。
恐ろしい放火魔は捕まり、世間には平和が戻った。
しかし、加害者家族である小春達にとっては、ここからが地獄の始まりであった。
自宅には毎日のようにマスコミが押し寄せ、小春は勿論、彼女の父や姉も報道陣に付きまとわれた。
近所の住人、仕事先の人間、学校の人間――それらからは白い目を向けられ、「人殺し」「お前らも死刑になれ」等と罵られた。
とても辛かった。とても苦しかった。
それでも父と姉が居てくれたから、支えてくれたから小春は挫(くじ)けずに頑張れたのだ。
けれど、もう支えてくれる家族は居ない。
半年前に突然、何の前触れもなく小春の目の前で死んでしまった。
小春を元気づける為、父と姉は彼女と一緒にカラオケへ行った。
店員からは睨まれたが、部屋に入ってしまえば他人の目に触れることはない。
3人は半ばヤケクソ気味に騒ぎ、歌った。
とても楽しかった。
また明日も頑張れると、そう思えたのに――
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