第1章

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2度目の携帯のアラームが鳴る。 身体が不快な音に反応し、目を覚ます。 一晩かけて作った心地よい空間は いつだって離れがたい。 テレビでは、桜前線がしきりに流れて 春だ、春だと浮かれている。 奈緒の住む長野は、春は少し遅くやってくる。 朝は、まだ肌寒く 隣で寝ている悠介は、頭までしっかり布団を被り 小さな寝息が聞こえてくる。 3度目のアラームが鳴ると同時に 素早く止めて、布団から出る。 悠介にも、テレビと同じように春が来ている。 無造作に置かれた悠介の携帯には 恋い焦がれる文と、可愛いハートの絵文字が 悠介と同じように気持ちよさそうに眠っている。 「原田さん、また、デートしてくださいね。 大好きです。しっかり仕事して、いっぱい褒めてもらお」 幼さを残し、真っ直ぐな文を 私は、もう悠介に送るとこはないなぁと思う。 二人分のお弁当箱を机に置き 卵を2つ、ウィンナーを4本、冷蔵庫から取り出す。 電気ケトルに水を入れて フライパンに油をひいて 2年間の習慣で、何も考えずとも 身体が動き出す。
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