出会いは突然に。

2/12
前へ
/112ページ
次へ
 帰路の電車の中、俺は無心で揺られていた。いつものラッシュの時間じゃないからか、余裕で座れた。普段なら帰路で座れたら内心で大喜びしている所だが、今はそんなことは微塵も思わなかった。もしかしたら、口も半開きだったかもしれない。あぁ、最寄り駅に着いてしまった。帰宅にこんなに心が重いのも始めてかもしれない。そりゃ、仕事で疲れて気分がよろしくない時もあったけど、帰宅さえすれば後は自由だ。ゲームしたりテレビ眺めたり、趣味のボトルシップに没頭したり……。はぁ、と溜め息を吐きながら重い体を持ち上げて駅へ降り立った。朝夕の通勤ラッシュ時はホームから落ちるのではないか、と思うくらい人でごった返しているのに今はがらんとしている。それもそうか、まだ日も高いしな。真っ直ぐ自宅のマンションへ向かう事は正直言って、嫌だった。でも、それ以外にやることがない。寄り道する気分でもなかったし、ゲームセンターへ行ったとしても、昼間は上手い人が多くて下手な俺は居るだけ邪魔になるだろう。ましてやこんな重い気分でゲームなんかやりたくない。結局、重い足取りでも真っ直ぐ帰るしかないのだ。 「…………。」  人間、絶句する時は口を開けるんだな、と他人事のように思った。目の前の状況が理解できない。なんで、どうして、俺の部屋の前に裸の女が座ってるんだ。しかも、ドアに凭れて。更に行儀の悪い事に立て膝まで突いてる。なんなんだ、こりゃ。彼女は俺に気付いたのか、ゆっくりとこちらを向いた。少しつり上がった目、筋の通った鼻、唇は少し薄い。なんというか、俺のタイプだ。いやいや、そういう事じゃない! 「やっと帰ってきたか、待ってたんだぜ。」 男らしい喋り方。なんなんだ、この人は。 「よろしくな!」 元気よく挨拶してるが、俺の疑問は解消される事は愚か増える一方だ。しかし、こんな状況を誰かに見られて通報でもされたら不味い。ただでさえ会社をクビになったんだ。その上、犯罪者の汚名を着せられるなんて堪ったもんじゃない。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加