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鼻につく薬品の匂い。
ぼんやりとした思考で私は目を覚ました。
私…何して……。
そんな事を思っていると声をかけられた。
「白雪!」
隣から聞こえてくる声は藍くんのもの。
隣を見れば藍くんが私の手を握っていた。
「藍くん……?」
「良かった……。しばらく目を開けないから、生きた心地がしなかった……」
頬に藍くんが手を伸ばして撫でてくれる。
それから痛々しい表情をした。
「なんで、こんな事したの?」
こんな事?
そう考えてからハッとした。
そうだ、私……自分で自分を……。
「ごめん、なさい……」
「俺と理沙の事で不安になった?」
「……っ」
「何も不安になる事ないよ。俺も理沙も、もう終わった事だから。和解して、友達には戻れるかもしれないけど、もう一度付き合うなんてお互い考えてない」
「でも……っ」
二人の中にはまだお互いがいる。
そう感じたのは間違いない。
だけど、真っ直ぐ私を見つめる藍くんの目は嘘なんてついていなかった。
「俺は、白雪の事が本当に好きだよ。今までの誰よりも。こんなに好きで離したくないって思ったの白雪だけだし」
「藍くん……」
「勝手に俺から離れて行こうとしないで。ていうか、何勝手に自分で解釈して自己完結してるわけ?ファミレスの会計だって勝手にして。白雪の財布にお金入れといたから」
「え……?」
「彼女に出させるわけないでしょ?俺にカッコつけさせて」
藍くんはそう言うと優しく微笑んだ。
「俺は白雪の過去に何があったのか知らない。こんな事するくらい、自分の事嫌ってる事も知らなかった」
「……っ」
「でも、もう絶対にしないで」
「え……?」
「俺は白雪の全部が好きだから。白雪の顔も、声も、性格も、仕草だって、何もかもが好きなんだ。ほんと、好きすぎて馬鹿だなって思うくらい。そんな白雪を、たとえ白雪自身であっても傷つけないで。見つけた瞬間、めちゃくちゃ怖かったから」
藍くんは私の頬を撫でながら辛そうにした。
私は自分が嫌いだ。
それでも、そんな私を好きだと言ってくれる人が居る。
私の大事な人が、私を好きだって言ってくれる。
いつかこの幸せが壊れてしまうとしても、今はそれだけで十分だ。
私は「ごめんなさい」と謝って、藍くんの手に甘えた。
それからしばらくして私達は病院を出た。
頬に大きなガーゼが貼られていて痛々しい見た目になっている。
幸いなことに、痕は残らないと思うと言ってくれた。
手を繋いで帰り道を歩く。
自分で勝手に勘違いして二人をくっ付けようとしたとか……
恥ずかしくて穴に入りたい。
マンションに戻ると私の荷物が散乱しているままだった。
鏡に投げつけてそのままだ……。
片付けていると藍くんも一緒に片付けてくれた。
「ありがとう……」
「ううん、いいよ。不審者にでも襲われたのかと思ったけど」
「ご、ごめんなさい」
謝ると藍くんが笑った。
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