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突然の事で固まっていたけど、頭でようやく何をされたか理解した途端顔が熱くなる。
「藍くん!?ここ、会社……っ!」
「知ってる。でも可愛い白雪が悪いから」
意地悪に微笑んで藍くんが部屋を出て行った。
本当に、あの意地悪くんは……っ。
でも、藍くんのおかげで頑張れそうな気がする。
頑張ろう。
気合いを入れて仕事に取り掛かる。
さっきよりも頭は冴えていて、スムーズに作業することが出来た。
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今日は増田先輩が用事で来れないため、一人でフィーユまで来ている。
デザイン画が出来たので細かい打ち合わせをお願いされたのだ。
正直、河井さんと二人で会うのは気まずいんだけど……。
綺麗な応接室に案内されてしばらくすると河井さんがやって来た。
「お待たせしてすみません」
「いえ、私も早く着いてしまったので」
「ふふっ、松森さんは優しいんですね」
美人に微笑まれると心臓がキュンってなる。
これは藍くん、惚れるよ。
「あの、仕事とは関係ないんですが。松森さんが私と同じ歳だと聞いて、良かったら仲良くしていただけないかなと思っているんです」
「え!?」
藍くんの元カノでなければ嬉しい話だ。
いや、彼女はまだ私が藍くんの彼女だと知らない。
だからこうやって言ってくれているんだ。
それに、藍くんの元カノってだけで毛嫌いするのは違う気がする。
私は笑顔で頷いた。
「もちろんです。私も仲良くしていただけるのであればとても嬉しいので」
「良かった!それじゃあ、仕事のあとでライン交換しましょうね」
嬉しそうに笑う彼女に罪悪感が浮かぶ。
何も悪い事してないんだけど、何だか騙してるみたいで……。
河井さんにデザイン画を渡して細かい修正のアドバイスをもらう。
この人、仕事が出来る人だ。
分かりやすく説明してくれるし、何より修正した方が圧倒的に着やすくなる。
同じ歳って事は、新入社員って事だよね?
それなのに、もう一人でこういった企画を任せられてるんだ。
その事に劣等感を覚えてしまう。
「ドレスは何とかなりそうですが、やっぱりタキシードに関しては男性の意見も必要ですね……」
河井さんがタキシードのデザイン画を見て困ったような顔をする。
「一般男性では分からないでしょうし、松森さんの周りに話を一緒に聞けそうな方っていませんか?」
そう問われて浮かんだのはビジネススタイル部。
でも、そこには藍くんが……。
『会いたくない』
藍くんは確かにそう言った。
でも、ビジネススタイル部は何も藍くんだけじゃない。
江藤先輩にでも相談してみよう。
そう思っていると河井さんが口を開いた。
「出来れば、私達と言い合えるような方がいいんですが。年が近いとか、同じ年に入社された方とか」
ドキッとした。
この人、もしかして藍くんに会いたい?
そう思ったけど、その考えを消すように頭を振った。
いや、河井さんは仕事として言ってるんだ。
だって『藍くんを呼べ』とは言ってない。
私が勝手に思ってるだけだ。
それに、河井さんと話して気づいてしまった。
この人は、とてもいい人だって。
そんないい人が、どうして浮気なんてしたんだろう?
どうして、藍くんを裏切るような事をしたんだろう?
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