馬鹿、また頑張りすぎてる

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河井さんは藍くんを一瞬見て固まったが、何事もないように仕事の内容を切り出した。 江藤先輩と増田先輩が河井さんと内容を詰めている中、私も藍くんも何も言えなかった。 「これが当社で考えたドレスとタキシードです。フィーユ様のデザイン画と見比べると当社のものは着心地にこだわって作成していますので、あまりデザインを重視していません」 「でしたら、デザインはこちらのものを。着心地はフルーナ様のものを採用されてはいかがでしょう?」 「可能でしょうか?」 「着心地を重視すればその分デザインに費用はかけられません。一方でデザインを重視すれば着心地を疎かにしてしまいます。かといって、予算内で同じように二つを組み合わせようとすれば良いものは出来ません」 「では無理なのでは?」 「いいえ。できますよ」 そう言い切る河井さんに増田先輩は驚いていた。 河井さんはデザイン画に文字を書き足した。 「フルーナ様の着心地を最優先しましょう。女性は特に重たいドレスを身に着けて歩くのです。ならば少しでも着心地が良く、そして軽いものが良いと私も思います。デザインはこちらで提案したものを使いましょう」 「そうしたら予算オーバーなのでは?」 「デザインなんて、目で見るだけです。一瞬でも『可愛い』『これが着たい』と思ってもらうだけ。だけど、どれだけ可愛くても着心地が悪ければ人は選びません。それならばデザインの面で高級なものを使う必要はありません。今はプチプラの時代です。同じような触り心地で同じようにデザインを組める材料を探せばいい」 なんて仕事のできる人だろう。 同じ年とは思えない。 圧倒されながら今日の打ち合わせは終わった。 フィーユを出ようとした時、河井さんに呼び止められた。 「藍!」 私ではなく、藍くんが。 藍くんは嫌そうな顔をしながら振り返る。 私、いるとよくないよね? 気になるけど立ち去ろうとすると藍くんに腕を掴まれて阻止された。 なんで!? 「風間くん!?」 「一緒にいてよ、松森さん」 冷たい顔で河井さんを見ながらそう言う藍くんにぞくっとした。 何も言えずに俯いて固まっていると河井さんが悲しそうな顔をした。 「えっと……久しぶり」 「何?俺、お前と話すことなんて何も無いけど」 「うん……」 地獄のような空気が辺りを包んでいる。 何とかしてあげたいが、私が気軽に口を挟むわけにはいかない。 こんな時、どうしたら……。 「と、友達……なんですよね?」 咄嗟に私はそう言っていた。 二人が驚きながら私を見る。 藍くんに至っては『元カノだって言わなかった?』とでも言わんばかりの顔。 私は気づいていないフリをして言葉を続けた。 「喧嘩したなら、ちゃんと仲直りしないとダメですよ?こうやって仕事とかで会う可能性だってあるわけで。お互いが気まずいと仕事しづらいでしょ?それに、ちゃんと意見言えないし。それで仕事がおろそかになるのは絶対にダメです」 ・
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