馬鹿、また頑張りすぎてる

11/15
前へ
/104ページ
次へ
「それにしても、フィーユの新卒は優秀だなー」 「もう一人で企画任されてるんでしょ?」 先輩達は増田先輩にそう聞いていた。 私は隣でそれを聞きながら劣等感にさいなまれていた。 「凄いよね。話し合いしてもこっちが欲しい言葉くれるし、頭の回転速いし。優秀すぎてビックリ」 増田先輩はそう言っていつものように笑った。 河井さんは先輩達にもそういった印象なんだ。 可愛くて仕事が出来る。 それにとても話しやすい。 ……私とは違う人。 先輩達は何も私と河井さんを比べていない。 ただ河井さんが優秀だと言っているだけ。 勝手に劣等感を抱いているだけだ。 私と河井さんは違う。 それは分かっているけど、先日の一件がどうしても頭をよぎる。 楠さんに言われた『仕事が出来ない人』という言葉。 私、もっと頑張らないと。 藍くんと河井さんが二人で並んで笑い合っている光景を想像して気持ち悪くなる。 どうして私はすぐ、お似合いだと思ってしまうんだろうか。 「頑張らないと……」 小さくそう呟いて仕事に取り掛かる。 私のつぶやきは先輩達には聞こえていない。 就業時間になって先輩達が帰って行く。 まだパソコンと睨めっこしている私に増田先輩が声をかけてくれた。 「白雪ちゃん、まだ仕事終わらない?」 「あ……はい。すみません」 「珍しいね。白雪ちゃんが就業時間になっても仕事残してるなんて」 「今日話し合った事をまとめておきたくて……。すぐに終わるので先に帰ってください。戸締りしておきます」 「そう?……あまり無理しないでね」 増田先輩は困ったように微笑むと席を立った。 誰も居なくなった部屋でため息をつく。 河井さんに追いつきたい。 そしたら藍くんと並んでいても誰にも文句言われない。 誰にも藍くんを渡したくないなんて独占欲。 藍くんは物じゃないのに。 頭が凄く痛い。 気分が悪い。 それでも頑張らないと。 もっと頑張らないと河井さんに追いつけない。 彼女と同じ場所に立てない。 比べてももらえない。 焦りばかりが浮かんでくる。 頭を抱えて俯くと腕を引かれた。 「!?」 「何してんの?」 「藍くん……っ」 「体調悪いのに無理すんな」 怒ったようにそう言って強制的にパソコンをシャットダウンさせられる。 それから問答無用で私のカバンを掴むとそのまま私の手を引いて歩き出した。 なんで……っ。 「藍くん、離して……っ」 「嫌」 「離して……っ!」 「無理」 藍くんは私を壁に押し付けるとそのままキスをしてきた。 ・
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

339人が本棚に入れています
本棚に追加