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なんで……藍くんが……。
上手く回らない頭をフル回転させて理由を探す。
「風間くん。白雪の事送って行って。この状態じゃ一人で帰せない」
「ありがと、井原。助かった」
ああ、加代ちゃんが呼んでくれたんだ。
そんな事を思いながら私はゆっくり意識を手放した。
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目を開けて最初に思った事。
あれ?なんかデジャヴ?
この間も倒れたような気がするんですけど。
それで藍くんがマンションまで連れて帰ってくれて……。
私は両手で顔を覆ってため息をついた。
「またやってしまった……」
好きな人にこれほどまでに迷惑をかけるなんて、彼女としてあるまじき失態。
無理せずに休めば良かった……。
それに、ベッドの上にいるとこの間の事を思い出してしまって居たたまれなくなる。
私が痴女化して藍くんに迫ってしまったあの日。
藍くんは普通にしてくれているけど、よく考えたら絶対にアウトだ。
不安だから抱いて欲しいとか、どこの痴女だよ。
欲求不満にも程がある。
激しい後悔に苛まれていると部屋に藍くんが入ってきた。
「あ、起きた?」
「藍くん……」
藍くんは優しく微笑むと私の頭を撫でた。
「熱あったのに、なんで言ってくれなかったの?」
「ごめんなさい、迷惑をかけたくなかったから……」
「この間言ったじゃん。『倒れられたら俺の心臓止まる』って。白雪は俺の心臓を止めたいの?」
「そんなわけないよ!?」
「それに、『無理したら閉じ込める』って約束しなかった?」
「あ、あれは……っ!仕事では無理してないよ!」
「こうやって熱があるにも関わらず仕事に向かってる事は無理なことではないの?」
優しい口調だけど責められているのが分かる。
無理したつもりはない。
ただ、心配をかけたくなかった。
熱があるっていったら藍くんだって仕事休んでくれたでしょ?
藍くんに迷惑をかけたくないのに……。
「白雪」
「……」
「俺は白雪が頼れないくらい情けない?」
「え!?」
そんな事は無い。
藍くんはいつだって私を助けてくれるし頼りになる。
こんな素敵な人が私の彼氏でいいのかって不安になるくらい。
私は全力で左右に首を振った。
「それならもっと頼ってよ。しんどならしんどいって」
藍くんが私の額に口づける。
近い距離で微笑むと優しく頭を撫でてくれた。
「返事は?」
「……はい」
「うん、いい子」
もう一度軽く口づけると藍くんはベッドから離れた。
「お腹空いてない?とりあえず何か作ってくるから食べて、薬のもう。それでも熱下がってなければ明日病院行こう」
「うん」
「彼女に甘えられるのが嫌な彼氏なんて、この世にいないから安心して」
そう言い残して部屋を後にする。
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