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私が王子班長への不毛な片思いを助長してしまってきた理由は、同じ地下鉄を利用している点もあると思う。 なにせ、私の最寄駅の隣が王子班長の最寄駅なのだ。 初めて一緒に味噌カツ定食を食べた日に知った。 それまでは、会社の飲み会なんかがあっても王子班長個人と親しくはなかったし、同じ地下鉄を利用していることにさえ気が付いていなかったのだ。 「気を付けて帰れよ! お疲れ!」 私が電車から降りる前に片手をあげてニコリを笑われると、胸がときめく。 坊ちゃんカットかと思うような髪型だし、黒縁眼鏡だし、名字は見た目に合っているのか合っていないのか王子だし。 名前負けならぬ名字負けしていると思うような見た目なのに。 それでも、私は王子班長が好きなのだ。 最初に味噌カツを食べたあの日。 『大森さんはよく頑張ってると思うよ』 絶賛仕事の壁にぶち当たり中の大森聡子にそんな言葉をかけたら、簡単に恋に落ちてしまうに決まっている。
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