2340人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうそう、大森さんに頼みたいことがあって来たんだった」
極めて何でもない風を装ったけれども、本当は自分に興味を持って欲しいと思ってる。
ビニル袋に入れた買い置きの煙草。
「処分してくれない? 自分でしようと思ったんだけど、もったいない気がしてさ」
大森聡子のダイエット宣言と同じくらいのインパクトを与えられたのだろうか。
大森聡子は、袋の中が煙草だと分かった瞬間に分かりやすく驚いた表情を浮かべた。
「ど、どうしたんですか? 禁煙ですか?」
「そう。だって大森さんに食べるモノを考えろとか運動しろって言っておいて自分が煙草をスパスパしてたらなんか違うじゃん?」
大森聡子が出してくれたチョコレート、部屋の壁際に置かれた踏み台を見つつ自分の煙草も見た。
人に言うだけ言って自分は全然仕事をしない上司に誰がついていくのか。
多分、そういうのと同じ発想だ。
大森聡子にいろいろと偉そうに言ったのならば自分だって何かしないとと思った。
「はい、このチョコレートは禁止。下げて」
テーブルの上に置かれたチョコレートを大森聡子に片付けるように言えば、諦めたような顔で立ち上がった。
勝手に人様のキッチンを見るようなことはしないけれども、家主が立ち会っているのならばいいだろうと大森聡子の後ろをついて行く。
大森聡子は鈍くさいのか、自分が後ろからついて歩いていることに全く気がついていないみたいだ。
もう少し、自分のことを気にしてくれてもいいのに……。
開けられた冷蔵庫の扉を大森聡子越しに眺める。
うん、微妙。
最初のコメントを投稿しよう!