side S

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ダイエットを決意したくせに、食べ納めと称してたくさん注文してしまう自分の意思の弱さやデブマインドな性を注文後に感じているビールが出てくるまでの隙間時間。 お隣の若そうなサラリーマンを観察してしまった。 週末金曜日の夜に、1人でこんな店(いい店なんだけど)に来てしまうということは彼女もいないのかなぁなんて勝手な妄想をしてしまう。 髪の色は黒で、癖もなく頭頂部のあたりを立体的に作りこみ過ぎない感じでワックスか何かで流れを出している感じが我社の疲れ切った男性社員とは違ってお洒落だ。 注文したビールと土手煮を受け取り、グラスにビールを注ぐ。 この黄色と白の絶妙なコントラストを織りなす親父くさい飲み物もこれが飲み納めだ。 心して飲もう。 「ぷはぁっ」 つい、いつもと同じように言ってしまった後になって、今日はいつもと違ってお隣に座っているのはオジサンではなく若者だったことを思い出した。 しまった……。 まだ、女を捨てたわけじゃないし、もう少し自分を磨きたいと思ってダイエットを決意したはずなのに。 お隣のサラリーマンが鼻で笑った声が、どういうわけだか聞こえてしまった。 店内はガヤガヤしているのにも関わらず。 その横顔を盗み見ていたら、クイッと口角があがり連動して頬のお肉もクイっと上り、目元はちょこっと垂れて小さな笑いジワが見えたと思ったら、 「ここで出会ったのも何かの縁かもしれません。ご一緒させてもらってもいいですか?」 クスクス笑う声が今にも聞こえそうなほど楽しそうな顔をして、そうのたまった。 またもや、私はそのサラリーマンから爽やかな風を感じてしまった。
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