再会は雨の日

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「これで午前中の検査はすべて終了です。着替えて1階のレストランでお食事をお取り下さい。」 案内で下剤と一緒に食券を渡された。下剤は女性検診が終わってから飲むように言われ、うがいのできるコーナーを教えてもらった。 鏡の中の私は口の端に白いバリウムがついていて、変に甘さの残るバリウムが無くなるまで口をゆすいだ。 もう一度、鏡で確認して、ため息を吐く。 初恋の人に再会するとわかっていたら、お化粧して来るんだった。 工場では洗濯物にファンデーションや口紅を付けてはいけないので、すっぴんで働いている。 だから、人前ですっぴんでいるのに慣れてしまっていて、今日もすっぴんだった。バリウムの紙コップに口紅がつくのが嫌だという、ただそれだけの理由で。 27のいい大人がすっぴんなんて。先輩はどう思っただろうか。 うちの高校は厳しかったから、色付きリップも禁止で、メイクなんてとんでもなかった。 そういう意味では、あの頃と変わらない何森希歩だ。肌の張りは高校生に負けるけど、足は今の方が細い。 大人になったら少しは胸が大きくなるかと思っていたのに、全然変わらないし。 私って成長していないのかも。 身体もそうだけど、何より精神面が。 何回、”変わってやる”って思ったことだろう。こんな自分が大嫌いで。変わったと思っていても、それは仮面を被っていただけで、本当の自分は変わっていなくて。 いい加減うんざりしながら、更衣室で検査着を脱いだ。 着替えて、レストランが寒いかもしれないので念のためコートまで着てから自動ドアを出ると、靴箱の横に一生先輩が立っていた。
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