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「あんた、本当にバカね。」
戻ってきた小圷さんがベッドの先輩を見下ろして、冷たく言い放った。
どうやら、食堂で箕輪さんから何もかも聞き出したらしい。
先輩は何か反論しようとして開いた口を悔しそうに閉じた。
「私だったら、こんな男ほっといて、さっさと大学生のところに戻るけど?」
小圷さんが私を見るので、ああっと大声を出してしまった。
「すみません。ちょっと電話してきます。」
なぜか焦ったような顔の先輩と小圷さんたちに断って、私は廊下に出た。
「もしもし、要くん?ごめんね。管理会社の人、来た?」
「来たよ。別に問題なかった。鍵も渡した。」
「良かった。ありがとう。」
「で?あいつはどうだった?」
あ、そうか。要くんはまだ先輩が事故で瀕死の重傷だと思っているんだっけ。
廊下を歩いて、突き当たりのソファーに座った。
「うん。大丈夫。命に別状はない。」
「…希歩さん、あいつのところに戻るんだ?」
言い当てられて言葉に詰まると、小さなため息が聞こえた。
「やっぱりな。同情と愛を勘違いしてない?」
「してない…と思う。」
ちょっと自信がないのは、先輩がピンピンしていたら愛より怒りが先に立っただろうと思うから。
「戸波のアパートはどうすんの?レンタルビデオ店も。」
「どっちも断ろうと思う。先輩の家から病院に通うつもり。仕事はしばらくは出来ないかな。」
「そうか。決めたんなら仕方ないな。」
「うん。ごめんね。いろいろと。今から断りの電話入れるから。」
じゃあねと切ろうとしたら、
「希歩さん。」
と要くんに呼びかけられた。
「ん?」
「俺はやっぱり希歩さんが好きだよ。
だから、いつでも力になる。またボロボロに傷ついたらクロスワードやろう。俺たち無敵だから。」
「うん。ありがとう。私も要くんが大好きだよ。」
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