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「タクシーで大丈夫です。荷物は取りに戻りますけど、今日から先輩の家に帰ります。あ、住所、教えてください。」
先輩の方を見ると、嬉しそうな笑顔でちょいちょいと手招きされた。
「もうおまえら帰っていいよ。ありがとう。」
素っ気なく追い払うような言い方に、2人は呆れながら帰って行った。
「希歩。」
枕元まで近づくと、先輩が弱々しく手を伸ばして、私の髪に触れた。
「はい?」
中腰になって屈み込むと、先輩の指が頬を撫でた。
途端に泣きそうになる。
切なくて切なくて。どうして、こんなに…
「愛してるって言ってくれ。」
口がへの字に曲がってしまったのがわかる。
喉の奥に込み上げるものがあって、コクンと飲み込んだ。
「そんな言葉じゃ足りません。」
先輩の顔が涙でよく見えない。
「じゃあ、希歩の言葉で伝えて。」
そう言われても、気持ちを言葉にするのって難しい。
私は考えながら、ゆっくり言葉を紡ぎ出した。
「先輩のことをずっと想っています。朝も昼も夜も。今までもこれからもずっと。
先輩のことを許します。今までのことも、これからのことも。あ、もちろん浮気は許しませんけど。
先輩のことをずっと支えていきます。いつでも一番の味方で一番の理解者になって力になります。辛い時も苦しい時も私が半分背負います。
先輩のことを信じます。もう決して嘘をつかないと約束してくれるなら、世界を敵に回しても先輩のことだけを信じて、先輩を守ります。
それで、先輩と一緒に生きていきます。何があっても離れずに。もうずっと一緒に生きていきます。」
ポロポロと涙が零れたけど、思いのたけを全部吐き出せたせいかスッキリした気持ちがした。
「ありがとう。俺も同じ気持ちだよ。」
涙声の先輩が優しく指で頬に流れた涙を拭ってくれた。
「『愛してる』じゃ足りないけど、そういう気持ち全部ひっくるめて愛してる。おまえは自分の命よりも遥かに大切で、この上なく愛おしい。
…キスしてくれないか?」
今までどんなに好意を示しても、なぜか1度もキスしようとしてくれなかった先輩に初めてそう言われて、身体に電流が流れたみたいに震えた。
先輩に覆い被さるように顔を近づけて、そっと唇を重ね合わせた。
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