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先輩の唇はやっぱり熱くて、かさついていた。
昨日、大手術をしたばかりの重病人なんだと改めて思った。
「実を言うと、今のが俺のファーストキス。」
「え?!」
思わずまじまじと先輩の顔を見てしまった。
先輩は顔を赤らめて、目を泳がせた。
「仕方ないだろ?高2でおまえに惚れたのが初恋だったんだから。それから、ずっとおまえだけを想ってきたんだから。」
「えっと、じゃあ、つまり…」
「つまり、28にしてチェリーってこと。本当はこのことは言わずにおまえと籍を入れちまおうと思ってた。
こんなこと知られたら、絶対幻滅されると思ったから。」
「そんなことないです!」
むしろ、すごく嬉しい。でも、そう言ったら墓穴を掘ってしまう気がする。
「おまえは相当、経験豊富そうだから、尚更どうしても言えなかった。」
なんか嫌味っぽく聞こえるのは気のせいかな?
「全然、経験豊富なんかじゃありません。」
「要とヤりまくってたんだろ?」
「…もうこの話はやめませんか?」
「否定しないんだ?あいつ、いっぺん殺していい?」
「要くんとはたかだか半年足らずの付き合いだったから。」
「ふーん。浮気した元カレとは何年だっけ?」
「…3年…です。」
どんどん自分の身体が小さくなっていく気がする。
「もう、おまえに触れた男、全部消したくなる。
卒業式の日に俺が告白してたら、おまえの初めては俺のものだった?」
「はい。」
そうだったら良かったのに。
フ―ッと大きく息を吐いて天井を見上げた先輩もきっとそう思っているに違いない。
「今さら過去はどうしようもないから、これから先のことを考える。
俺の未来にはいつもおまえがそばにいて、手を伸ばせばいつも触れられて。求めれば応えてくれる。
そうだよな?」
「はい。」
今、やっとわかった。
先輩が作ったあの組曲。『君のいる未来』は私への熱烈なラブソングだったんだと。
先輩の未来には私がいて、私の未来には先輩が微笑んでくれている。
それがすべてで、それだけでいい。
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