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「このクッションって、誰のためのものなんですか?」
再会した日から心の奥に小さなトゲみたいに引っかかっていた疑問。
先輩は誰かと交際をしたことが1度もなくて、小圷さんや奈乃香さんを助手席に乗せたことはあっても”彼女”じゃなかったということはわかったけど。
じゃあ、このピンクの花柄のクッションは何なの?と改めて思った。
「え?ああ、それ。ばあさんの。」
「へ?」
何とも間抜けな声が出てしまった。
「うちのばあさん、腰が曲がってシートベルトがうまくできなくてさ。座高を高くするために使ってたんだ。
高さが合わなかったら、後ろに置いておいてくれればいいから。」
それが何か?みたいな口調で言われたら、そんなことを気にしていた自分が恥ずかしくなる。
でも、私のヤキモチは鈍感な先輩には伝わっていないはず。
そう思って油断していたら、
「誰のだと思った?」
と意地悪な顔で聞かれてしまった。
「彼女とか元カノとか…最初の時からここに座るのって結構、抵抗あったんですよ?」
ちょっと拗ねたような言い方になってしまったのは仕方ないと思う。まったく紛らわしいことをしてくれて!
「それを言うなら、俺だって…」
言いかけて止めた先輩は車をスタートさせた。
ん?と先輩の横顔を見つめ続けたら、先輩が降参したようにため息を吐いた。
「結婚指輪。再会した時、おまえ嵌めてただろ?あれ、フェイクだって言ったけど、そのためにわざわざ買わないよな?誰かにもらった奴?」
先輩の口調に嫉妬が滲んでいて嬉しくなった。もしかして、ずっと気にしてた?
誤解させて悪かったと思うよりも嬉しいと思ってしまうなんて。
でも、さっきの先輩もそうだったのかも。
「私が元カレから贈られた結婚指輪を返さないで、ずっと取っておいてるんじゃないかって思ってました?」
「うん。希歩が今まで何人の男と付き合ってきたのか知らないけど、例えば結婚式直前に不慮の事故で亡くなった元カレを忘れられないでいるとか。」
「先輩ってロマンチストだったんですね。」
そんな悲劇のヒロインが要くんとセフレになるなんて矛盾しているとは思わなかったんだろうか。
「で?」
ムッとしたような先輩の声に、笑いを噛み殺した。
「あの指輪はリサイクルショップで買ったんです。」
種明かしをしたら、先輩はなぜかガックリしていた。
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