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「世の中には知らなくていいことってあるよな。知るべきじゃないと言うか、知らない方が身のためって言うか。」
そんなことを言い出した先輩は何か迷っているようで、助手席の私としては雑念を払って運転に集中してほしい。
2か月ぶりにシャバに出てきて、体力も反射神経も動体視力も衰えているんじゃないかと思うから。
「結婚指輪がリサイクルショップで買えてしまうっていう事実をですか?」
「いや、そうじゃなく。…おまえ、何人の男に抱かれてきた?」
ゴホンゴホンと盛大に咳き込んでしまった。
まったく何を言い出すやら。そういうことは聞かないのが暗黙の了解なんじゃないの?
「夕べ、眠れなくてさ。いよいよ明日だと思うと。」
それは”いよいよ明日”退院するってこと?
それとも、”いよいよ明日”入籍するってこと?
もしかして、”いよいよ明日”結ばれるってことですか?
「毎晩イメトレは繰り返してきたけど、自信なくって。」
あ、やっぱり3番目ね。
「どうしても気になるんだよな。おまえが今までどういう男とどんな風にシて来たのか。」
「そこはやっぱり言わぬが花ってことで。」
「初めてはいつだった?」
私は小さくため息を吐いた。
「大学に入ってすぐだから18の時です。相手はバイト先のコンビニの店長でした。その人も含めて彼氏は5人です。彼氏じゃないのにエッチしたのは要くんだけだから総勢6名。いたってノーマルなセックスしかしていません。」
一気に捲し立てて、また息を吐いた。
急な角度で路肩に車を停めた一生先輩はハンドルをバンと叩いた。
「ちくしょう!!ちくしょう!」
ハンドルに額を擦り付けて叫び続ける先輩の震える背中。
私はそれを黙って見ているしかなかった。
「先輩は私が初恋の相手だって言ってくれたけど、私の初恋の相手も一生先輩なんです。」
静かになった先輩の背中に声をかけた。
ピクッと背中が動いたから、先輩が聞いていることは確かだ。
「部活で先輩と関わるうちにどんどん自分の中で先輩の存在が大きくなっていって、気が付けばいつも目で追っていました。
月曜日の3・4時間目は授業そっちのけで校庭ばかり見ていました。先輩のクラスが体育だったから。」
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