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毎日毎日、女性器を相手に仕事するのはどんな気分なんだろう。
カーテンの向こうで私のナカに何かを入れている医師のことを思った。先生からはこっちの顔は見えない。
見えるのは座ると自動で股を開かされる椅子に座った両脚の間の女性器だけ。かなりシュールな光景だろう。
仕事とは言え、先生の奥さんも嫌だろうな。そんなのんきなことを考えていた。
「ちょっと見て下さい。モニター、見えますか?」
カーテンをめくってモニターだけが現れた。先生はあくまでも姿を見せないらしい。
「ここの黒い部分です。まだ小さいですから様子を見ましょう。」
モニターのエコー画面の中の黒い丸い部分を指してそう言うと、先生は話を終わらせようとした。
いやいや待ってよ。ソレって何なの?
「様子を見て、ソレが大きくなったらどうなるんですか?」
慌てて尋ねた。医者っていうのはどうしてこうわかりにくく言うんだろう。聞かなきゃ何も教えてくれない。
「腫瘍になります。でも、そんなにすぐに大きくならないでしょうし、壁がツルッとしているので間違いなく良性でしょう。」
腫瘍?良性?
「様子を見ましょう。」
先生はもう一度そう言った。私は呆然としながら、はい、ありがとうございましたと呟いていた。
良性ならガンじゃない。でも、”間違いなく”なんて誰にも言えるわけがないんだ。精検してみたら悪性だったってこともある。
せっかく午前中の検査の結果がどれも良好だったと面談で告げられて、気を良くしていたのに。
母は子宮がんが見つかった時にはもう末期だったから助からなかった。
私はまだ0期にもなっていないから、死ぬことはないかもしれない。
でも、子どもが産めなくなる可能性はある。
それほど子ども好きというわけではないけど、結婚して子どもを持つということを当たり前の未来として思い描いていた。
愛する人が子どもを望んでも、産むことの出来ない体になっていたとしたら…
言いようのない不安と悲しみが胸に広がるのを感じながら、案内の前の席に戻った。
女性検診を受けない人たちは検査着じゃないから、面談が終わるとそのままさっさと帰って行く。ずいぶん人が少なくなった青い椅子をぼんやり眺めた。
一生先輩ももう帰っただろう。私よりも先に面談の部屋に呼ばれていたから。
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