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乳房検診の部屋に呼ばれるまで時間がかかったけど、私は本に集中できないでいた。
”様子を見る”って、来年の人間ドックまで放っておいていいのだろうか?
1年も経ったら手遅れになる?
女性検診の結果は後日郵送されることになっている。きっとそこに何らかの記述があるはずだ。それを待つしかない。
半ばうわの空で受けた乳房検診が終わると、やっと人間ドックが完了した。
着替えて靴に履き替えトイレに行った。トイレの中の貼り紙に、『子宮検診を受けた後は出血が見られることがあります。必要な方はナプキンをお渡ししますのでお申し出ください。』と書いてあった。
何回もドックを受けてきたが、こんな貼り紙を見たのは初めてだ。ナプキンがいるほど出血するものだろうか?
そんなことを考えながら、拭き上げたトイレットペーパーを見ると血がついていた。でも、ほんの少しだ。おりものに少し混じっている程度。それでも、検診で出血したのは初めてだった。
先生が下手だとか?ああ、そうか。腫瘍になりかけの影が見えたから、念入りに奥まで突っ込んだのかも。そう思ったせいか、下腹部の奥が痛くなってきた。
さっさとタクシーを呼んで、家に帰って横になろう。
足取りも重く階段を下りたところで、ロビーの椅子に座っている一生先輩に気づいた。もうとっくに帰ったとばかり思っていたのに。
先輩も私に気づいて椅子から立ち上がると、こっちに歩いてきた。
「待っててくれたんですか?」
「もしかして、おまえタクシーで来たんじゃないかと思ってさ。来る時タクシーから降りて入って行った女性がおまえに似てたなって思い出して。違った?」
「違わないです。タクシーで来ました。車、運転できないから。」
茨城の人は大抵車で移動するから、今日ここにタクシーで来たのは私ぐらいだろう。
「送ってくよ。タクシー代もバカにならないだろ?」
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えます。」
正直言って、片道2千円のタクシー代が浮くのはすごく助かる。
2人で傘を差して裏手の駐車場まで歩いた。
一生先輩の車は黒い軽自動車だった。
近づくと助手席にピンクの花柄のクッションが敷いてあるのが見えた。
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