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「どうだ。」
「綺麗。」
朝から準備して待っていたけれど、コイツが迎えに来たのは丁度時計の針が天辺を指した頃。
なんでこの男は言葉に疑問符をつけないのか。
「まだ咲いてたな。」
「うん。」
目の前に咲き誇るピンクと白の花。
フワッと風が吹けば、その花の欠片がヒラリと舞う。
「あ、」
舞ったそれは隣の無表情な男の黒い頭に音も無く乗った。
「クスッ」
思わず笑ってしまった。
あまりにも、そのピクリとも変わらないその顔と、ピンクの小さな花弁が似合わなかったから。
「なんだ。」
「少ししゃがんで?」
そっと黒い髪を撫でるように、その花弁を取った。
「乗ってたよ、幸せゲットだ。」
「幸せ?」
「そう、桜の花弁をキャッチ出来たら幸せになれるの。」
「キャッチはしてねぇだろ、勝手に乗っただけだ。」
それでも、私はコイツに幸せが少しでもたくさん来て欲しい。どんなに小さくてもいいの。たくさんの幸せに囲まれてほしい。
そんな気持ちで手に持ったピンク色を見つめる。
押し花にでもしようか。
「ん。」
隣から『こっち向け。』という意味を持つ、ほんの少しだけ甘い声が聞こえて、顔を上げた。
「グロスついてるよ。」
「何でこんな物つけてんだよ。」
「エチケットです。」
「そうかよ。」
そう言いながら男は、チロリと舌で唇についたそれを舐めとった。
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