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いつもの土曜日、いつもの喫茶店、いつもの席。 けれど、今日はいくら待ってもアイツは来ない。 そう思えば、涙は止まらなくて、重い瞼がどんどん腫れを悪化させていく。 「お待たせ致しました。」 目の前にいつものコーヒーが置かれる。 まだ白い湯気をあげるそれに、なんとなく、今日は砂糖をひと匙入れてみた。 いつもはアイツが出す、カラカラという音を出して混ぜた。 いつもより力が入らない指でカップを持ち上げて、カサついた唇にそれを持ってくる。 ゆっくり口に含めば微かに甘味があって、それがまるでアイツの様で、更に涙が溢れた。 今回は気持ちを押し込めることも出来なくて、ただひたすら流し続けた。ホロホロと溢れる物を止める術を知らなくて、いつもは何も入れないコーヒーが、今日は少し甘いせいだと、そう何かに言い訳をした。 いつか私の家に置いていった箱を鞄から取り出す。 中から一本抜き取り、それを唇でカサリと挟む。 一緒に入っていた安物のライターで火をつければ、慣れ親しんだ独特な匂いがして、煙が目に染みて、顔をクシャリと歪めた。 煙を吸い込み肺に送れば、少しクラリとして、このままアイツの元へ行ければいいのに、なんて非現実的な事を考えた。 あの『ん。』が聞きたくて、この煙草の様な少しカスれた低い声が聞きたくて、目の前のコーヒーの様に微かな甘さを隠した会話がしたくて、あの暖かい手を握り締めたくて、たまらない。 会いたくて、愛したくて、もっと、もっと。 何故。 アイツなの。 いつも元気だったくせに。 インフルエンザだってかかったことないくせに。 嫌いな物も苦い顔しながら食べてたくせに。 何故、なんで、どうして、きっと、きっと。
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