私のコーヒー、彼のタバコ

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「なんか買ってきてくれない?」  彼の提議は、いつも突然だ。  なんの脈絡も見せないまんま、急にこちらを振り向いて。  喉が乾いた、だの、自販機まで走ってこい、だの、とかく私のことを何も考えてはくれないことを口走る。  それがどれだけ突然でも、私は彼の頼み――どちらかというと命令だろうか――を断らない。  何故って、彼が頼んでいるのが、この私だからだ。  割りと普通に、日常的に、彼ら教員の使いっぱしりをしている、私だからだ。  一日一度、主に昼休みに、私は職員室に顔を出す。  正確には呼び出される。誰にって、教員方だ。  例えばノートを集めて持ってこいとか、配るプリントを忘れてきたから取りに来いとか、話があるからとにかく来いとか。  お陰でクラスメイトからは距離を置かれている。やたら職員室への呼び出しがかかるので、常に何かやらかしているのだろうと考えているに違いない。  そこは別段構わない。生徒との距離がどうだろうと、ペアや班を作るときに少し影響が出るだけで、他に何もありはしない。
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